弁護士・法律事務所のAI活用|用途別のリーガルAIと弁護士法72条・守秘義務の注意点
弁護士・法律事務所でのAI活用は、契約書レビュー、法令・文献のリサーチ、書面の下書き、記録の整理といった「下ごしらえ」が中心です。法務省のガイドラインでも、弁護士がAIの結果を自ら精査し必要に応じて修正する使い方は、直ちに弁護士法72条に抵触するものではないとされています。ツール選びでは、機能より先に「入力した依頼者の情報がどう扱われるか」を確認するのが出発点です。
ツールの前に「そもそもAIで弁護士の仕事がなくなるのか」を整理したい場合はAI時代に士業は不要になるのかをご覧ください。9つの士業の業務独占の条文と、法務省のガイドラインを一次資料でまとめています。弁護士に絞った将来性の話はAI時代の法律相談:弁護士が不要になる日は本当に来るのか?で扱っています。この記事は、実際にAIを業務に入れるときの「何に使えるか」「どれを選ぶか」「どこで線を引くか」に絞って解説します。
弁護士業務のどこにAIを使えるか
AIが得意なのは、大量の文章を読んで要約する、決まった観点で抜けや漏れを指摘する、たたき台を作るといった作業です。一方で、事実関係の評価、法的判断、依頼者への助言と責任は弁護士に残ります。
| 業務 | AIに任せやすい部分 | 弁護士が担う部分 |
|---|---|---|
| 契約書レビュー | 条項の抜け・不利な条項の指摘、修正案のたたき台、ひな形との比較 | 依頼者の事情を踏まえたリスク評価、最終的な修正内容の決定 |
| リサーチ | 関連する法令・文献・論点の候補出し、長い資料の要約 | 条文・判例の原典での確認、当てはめ |
| 書面作成 | 構成案、定型部分の下書き、表現の整え | 主張の組み立て、事実と証拠との照合 |
| 訴訟・調査の資料整理 | 大量の文書の分類・検索・時系列の整理 | 証拠の評価、方針の決定 |
| 事務所運営 | 議事録・メールの下書き、案件情報の整理 | 依頼者とのやりとりの内容と判断 |
用途別の主なリーガルAI(公式サイトで確認)
「ai 弁護士 事務所 比較」で探す人が多いのですが、法律分野のAIは用途がはっきり分かれています。下の表は2026年10月15日に各社の公式サイトで確認した内容です。料金の多くは公開されておらず、問い合わせ・見積もりになります。
| ツール | 主な用途 | 公式サイトで確認できた内容 |
|---|---|---|
| LegalOn(LegalOn Technologies) | 契約書レビュー、案件・契約管理 | アシスタント、レビュー、マターマネジメント、コントラクトマネジメント、サイン、テンプレート、MORI HAMADAライブラリーの各モジュール。レビューは「弁護士監修のAI」がリスクを指摘し修正案を示すと説明 |
| Lisse法務AI(旧LeCHECK) | 契約書レビュー・作成、リサーチ、翻訳、案件管理 | 「LeCHECK」は2026年10月2日に「Lisse法務AI 契約書レビュー」へ名称変更(アカウント・契約内容・料金・機能に変更なしと告知)。上位の「Lisse法務AI Cowork」は弁護士30名以上の監修と説明 |
| MNTSQ CLM | 契約の作成・審査・管理、ナレッジ化 | 案件管理、契約管理、AI契約アシスタント、AI Agent を提供 |
| LEGAL LIBRARY | 法律書籍・官公庁資料のリサーチ | 法律書籍の本文の横断検索と閲覧。自然文で関連文献を示すAI検索あり。個人向けSTANDARDプランは月額5,200円(税込5,720円)で、AI検索は月10回まで(2026年10月15日確認) |
| Harvey(米国) | 法律事務所・企業法務向けの総合AI | 契約分析、デューデリジェンス、コンプライアンス、訴訟を対象とし、Agents、Vault(文書の保管・一括分析)、Knowledge(リサーチ)などを提供 |
| Spellbook(カナダ) | 英文契約のレビュー・ドラフト | Review(修正・リスク指摘)、Draft、Compare(業界標準との比較)、Playbooks などの機能 |
| Everlaw(米国) | 訴訟・調査の文書レビュー | eディスカバリー、内部調査、証言録取の準備などでの文書レビューをAIで支援 |
選び方の目安は次のとおりです。
- 日本法の契約書を大量に見る:LegalOn、Lisse法務AI、MNTSQ のような国内の契約特化型。多くは企業の法務部門を主な対象にしているので、法律事務所で使う場合の契約形態はデモや資料請求で確認します
- 文献リサーチの時間を減らしたい:LEGAL LIBRARY のような法律書籍のデータベース。AIの答えだけでなく、根拠となる書籍のページに当たれる点が汎用AIとの違いです
- 英文契約や海外案件が多い:Harvey、Spellbook。日本法の扱い、データの保存場所、日本語対応は個別に確認が必要です
- 海外訴訟・大量の証拠開示:Everlaw のようなeディスカバリーのツール
旧版のこの記事で紹介していた ClickUp Brain、Detangle、AI Lawyer、Bluedot は、法律専門のツールではないか、弁護士業務での機能を公式情報で確認できなかったため外しました。
汎用の生成AI(ChatGPT・Claude・Gemini)の使い方
汎用の生成AIは、文章の要約や言い換え、論点の洗い出し、書面の構成案づくりに向いています。一方で、日本の判例や最新の法改正を正確に引けるとは限らず、存在しない判例や条文をもっともらしく示す「ハルシネーション」を完全には防げません。条文はe-Gov法令検索、判例は裁判所や判例データベースの原典で必ず確認します。
依頼者の情報を入力する前に、プランごとのデータの扱いを確認してください。たとえばAnthropicは、Claude for Work やAPIといった商用製品について、入力と出力を初期設定ではモデルの学習に使わないと説明しています(Anthropic Privacy Center、2026年10月15日確認)。個人向けプランは扱いが別なので、事務所で使うなら法人・業務向けの契約にそろえ、規約とデータ保持期間を確認するのが基本です。
依頼者が特定できない形で使う例として、次のような指示が考えられます。
次の業務委託契約書のひな形について、受託者側から見て
不利になりうる条項を挙げ、条番号と理由を箇条書きにしてください。
判断の根拠にした条文がある場合は条文名を書き、
確信が持てない点は「要確認」と明記してください。
(以下、当事者名と金額を伏せた条文を貼り付け)
「要確認」を明記させると、AIの答えのどこを原典で確かめるべきかが見えやすくなります。
「法律に強いAI」はどれか
「法律に強いAI」「法律 AI 無料」で調べる人もいますが、どれが一番正確かを示す公的な比較はなく、この記事ではランキングを作っていません。違いが出るのは、モデルの賢さより「根拠に当たれるか」です。法律書籍や判例のデータベースと結び付いたツールは、答えと一緒に出典を示せるため確認がしやすくなります。汎用AIを使う場合も、出典の提示を求め、提示されたものを原典で確認する手順を必ず挟みます。なお、一般の人が自分の紛争にAIを使う場合の注意点は、本人訴訟にAIは使える?で扱っています。
弁護士法72条とAI:どこで線が引かれているか
弁護士法72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関して鑑定・代理などの法律事務を取り扱うことを業とすることを禁じています(e-Gov法令検索 弁護士法、第72条「非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止」)。AIの法務サービスとの関係では、法務省が2つのガイドラインを出しています。
| 公表 | ガイドライン | 内容 |
|---|---|---|
| 令和5年(2023年)8月 | AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について | 契約書レビュー等のサービスを例に、72条の要件ごとの考え方と、該当しない例・該当し得る例を整理 |
| 令和8年(2026年)8月21日 | ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について | 令和5年版を補完・拡充。事業者向けのサービスについて、「事件性」のある案件への利用を避けるためのサービス提供者のガバナンス(注意・警告、弁護士への相談の案内など)を示した |
弁護士がAIを使う側として押さえておきたいのは、どちらのガイドラインも、弁護士・弁護士法人にサービスを提供し、弁護士がサービスを利用した結果も踏まえて自ら精査し、必要に応じて自ら修正する方法で利用する場合は、直ちに72条に抵触するものではないとしている点です(令和8年版では「弁護士利用モデル」と呼んでいます)。企業内の弁護士が自社の契約について同じ方法で使う場合も同様です。つまり、AIの出力をそのまま依頼者に渡すのではなく、弁護士が自分の判断として確認・修正することが前提になっています。
日本弁護士連合会も、2026年9月1日の会長談話で、法務省の令和8年ガイドラインなどに触れたうえで、ハルシネーションやバイアスの問題を挙げ、人間が最終的な判断を行うことが不可欠だとしています。
守秘義務と情報管理
弁護士法23条は、弁護士または弁護士であった者は職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています(e-Gov法令検索 弁護士法)。AIに依頼者の情報を入力することは、外部のサービスに情報を預けることでもあります。導入前に、少なくとも次の点を確認します。
- 入力した内容がモデルの学習に使われるか、使われない設定にできるか
- データの保存場所と保存期間、削除の方法
- アクセス権限の管理(事務所内の誰が、どの案件の情報を見られるか)
- 委託先としての契約条件(秘密保持、再委託、事故時の対応)
- 事務所としての利用ルール(入力してよい情報の範囲、匿名化の方法、出力の確認手順)
導入の進め方
- 用途を1つに絞る。契約書レビュー、文献リサーチなど、効果を確かめやすい業務から始めます
- データの扱いを確認する。前の節のチェック項目を、規約とセキュリティの資料で確認します
- 無料トライアルやデモで試す。過去の匿名化した案件で、出力の質と確認にかかる手間を比べます
- 確認の手順を決める。AIの出力のどこを誰が原典で確認するかを決め、事務所のルールにします
- 範囲を広げる。効果と問題点を見てから、ほかの業務や人数に広げます
同じ士業の比較として、税理士のAI活用や司法書士のAI活用もあわせて読むと、各法律の線引きの違いがわかります。AIの法規制全体はAIの法律・規制とは?、著作権の論点はAIと著作権の関係とは?で整理しています。
AIを使った業務の自動化を自分で試したい人向けに、テックジム東京本校(永田町)では対面のプログラミングスクールとして、自分のペースで課題を進め、つまずいたらトレーナーに質問できる環境を用意しています。無料講座から試すこともできます。
よくある質問
Q. 弁護士がAIを使うと弁護士法72条違反になりますか?
法務省のガイドラインでは、弁護士・弁護士法人がその業務としてAIサービスを利用し、利用した結果も踏まえて弁護士が自ら精査し、必要に応じて自ら修正する方法であれば、直ちに弁護士法72条に抵触するものではないとされています。
Q. 法律事務所向けのAIツールにはどんな種類がありますか?
契約書レビュー(LegalOn、Lisse法務AIなど)、契約管理(MNTSQ CLMなど)、法律書籍のリサーチ(LEGAL LIBRARYなど)、海外向けの総合AI(Harvey、Spellbook)、訴訟の文書レビュー(Everlaw)などがあります。用途で選び、料金は多くが問い合わせ・見積もりです。
Q. LeCHECKはなくなったのですか?
サービスは続いています。2026年10月2日に「Lisse法務AI 契約書レビュー」へ名称が変わりました。公式サイトでは、アカウント・登録データ・契約内容・料金・機能に変更はないと告知されています。
Q. ChatGPTやClaudeに依頼者の情報を入力してもいいですか?
弁護士法23条の守秘義務があるため、プランごとのデータの扱い(学習に使われるか、保存期間、削除方法)を確認し、事務所のルールで入力できる範囲を決めてからにします。法人・業務向けの契約にそろえ、匿名化して使うのが基本です。
Q. 法律に強い無料のAIはありますか?
どれが最も正確かを示す公的な比較はありません。無料の汎用AIは存在しない判例や条文を示すことがあるため、使う場合も出典を求め、条文はe-Gov法令検索、判例は原典で必ず確認してください。
まとめ
弁護士業務でのAIは、契約書レビュー、リサーチ、書面の下書き、資料整理の時間を減らす道具です。法務省のガイドラインと日弁連の談話が共通して求めているのは、AIの結果を弁護士が自ら精査し、最終判断を人が行うことです。ツールは用途で選び、導入前に守秘義務の観点からデータの扱いを確認し、出力を原典で確かめる手順を事務所のルールにしておきましょう。
本記事のツール情報・料金は2026年10月15日時点で各公式サイトを確認したものです。サービス内容は変わることがあるため、導入時には各社の最新情報を確認してください。
テックジム代表のメルマガから
このテーマに関連して、テックジム代表がメルマガ「グラさん通信」で書いた内容をもとにした記事です。
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