AIで土地家屋調査士は不要になる?測量・登記でAIが担える範囲と、法律が人に残す仕事
AIで土地家屋調査士が不要になる見込みは低いです。図面の下書きや資料の読み取り、測量データの処理はAIとデジタル技術で速くなりますが、表示に関する登記のための調査・測量と申請手続の代理を業として行えるのは、土地家屋調査士法第68条により調査士会に入会した土地家屋調査士と調査士法人に限られます。さらに、筆界を現地で確かめる作業には隣接地の所有者との立会いが欠かせず、ここは人の仕事として残ります。
この記事は1つの資格について書いています。9つの士業を横断して見る場合はAI時代に士業は不要になるのかをご覧ください。各資格の業務独占の根拠条文と、法務省が2026年8月21日に示したAIサービスと弁護士法第72条の線引きを、一次資料で確認して整理しています。
以下では、土地家屋調査士法・不動産登記法の条文と、国土交通省の地籍調査の進み具合、法務省の地図データの公開状況という公的な資料から、「AIで何が変わり、何が残るのか」を整理します。業務で使えるAIツールや地図データの扱い方は土地家屋調査士のAI活用にまとめているので、あわせてご覧ください。
条文で確認:土地家屋調査士だけができる仕事
条文はe-Gov法令検索の土地家屋調査士法で確認しました(2026年10月15日確認)。
| 条文 | 内容(要約) | AIとの関係 |
|---|---|---|
| 第1条(使命) | 不動産の表示に関する登記と、土地の筆界を明らかにする業務の専門家として、不動産に関する権利の明確化に寄与する | 「筆界を明らかにする」ことが仕事の核にある |
| 第3条(業務) | 表示に関する登記に必要な土地・家屋の調査又は測量、登記の申請手続の代理、法務局に提出する書類・電磁的記録の作成、筆界特定の手続の代理、これらの相談など | 書類作成はAIの下書きが効くが、調査・測量と代理は人の責任で行う |
| 第22条(依頼に応ずる義務) | 正当な事由がなければ依頼を拒んではならない(一部の業務を除く) | 公共性の高い資格であることを示す |
| 第24条の2(秘密保持の義務) | 業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない | 依頼者の情報をAIサービスに入力するときの判断に関わる |
| 第25条第2項(研修) | 業務を行う地域の、筆界を明らかにする方法に関する慣習などの知識を深めるよう努める | 地域ごとの慣習は、データになっていないことが多い |
| 第68条(非調査士等の取締り) | 調査士会に入会している調査士又は調査士法人でない者は、第3条第1項第1号から第5号までの事務などを業とすることができない(弁護士・司法書士の一部例外あり) | AIサービスの事業者が代わりに請け負うことはできない |
| 第73条(罰則) | 第68条第1項に違反した者は、1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 | 線を越えたときの重さ |
仕事の量は法律が生み出している
「AIで仕事がなくなるか」を考えるとき、需要の側も見ておく必要があります。不動産登記法は、新たに生じた土地や表題登記がない土地の所有権を取得した人に、取得の日から1か月以内に表題登記を申請するよう求めています(第36条)。建物を新築した場合も同じく1か月以内です(第47条)。申請を怠ると10万円以下の過料の対象になります(第164条)。
家が建ち、土地が分けられ、合わせられる限り、表示に関する登記の需要は続きます。AIが変えるのは「その登記をどれだけの手間で仕上げるか」であって、登記そのものがなくなるわけではありません。
工程別:AIとデジタル技術が入るところ、人に残るところ
| 工程 | AI・デジタル技術が担いやすいこと | 人が担うこと |
|---|---|---|
| 資料調査 | 登記記録・地積測量図・古い図面の読み取り(OCR)、資料の要約と整理 | 資料どうしの食い違いの評価、どの資料を信頼するかの判断 |
| 現地調査 | 写真・点群データの記録、境界標の候補の抽出 | 境界標の確認、地域の慣習を踏まえた現況の読み取り |
| 境界の確認(立会い) | 説明資料や図面の作成 | 隣接地の所有者への説明と合意形成 |
| 測量・計算 | 測量データの処理、面積計算、図面の自動作図 | 測量計画、結果の点検、誤差の評価 |
| 申請書類 | 申請書や図面の下書き、記載漏れのチェック | 内容の確定、申請手続の代理と責任 |
| 筆界特定・紛争 | 過去の資料の下調べ | 筆界特定手続の代理、相談、民間紛争解決手続の代理(認定を受けた調査士) |
表の右側に共通するのは、「現地」と「人」がからむことです。とくに境界の立会いは、隣り合う土地の所有者どうしの関係に直接かかわるため、データ処理だけでは終わりません。
境界の「正解データ」がまだ足りていない
AIは、大量の正解データがある作業ほど得意です。ところが土地の境界については、その元になる公的な調査がまだ途中です。国土交通省の地籍調査Webサイトによると、令和7年度末時点の地籍調査の進捗率は全国で53%、優先実施地域に限ると81%です。都市部(人口集中地区)と山村部の林地で遅れており、法務局が作る登記所備付地図の実績を合算しても、人口集中地区の進捗率は30%にとどまります。調査に未着手の市町村が5%、休止中の市町村が12%あるとも示されています(2026年10月15日確認)。
つまり、境界が公的に調べ終わっていない土地が多く残っており、とくに取引の多い都市部で遅れています。こうした土地で筆界を確かめるには、古い図面や現地の境界標、隣接地の所有者の話を突き合わせる作業が必要で、ここはAIが学習できる整ったデータがない領域です。
法務省の地図データは無償公開されているが、証明には使えない
一方で、データの整備は着実に進んでいます。法務省は、全国の登記所備付地図の電子データ(地図XML形式)をG空間情報センターで無償公開しており、2023年1月23日に公開を始め、2026年4月15日には2026年2月時点のデータに更新しました(法務省の案内)(2026年10月15日確認)。
ただし法務省は、この公開データは加工して利活用するためのもので、法務局の証明機能を持たず、地図証明書・図面証明書の代わりにはならないと明記しています。AIで地図データを分析して候補を絞ることはできても、登記や境界の確認に使う根拠は、法務局が証明した資料と現地の調査です。データの扱い方は土地家屋調査士のAI活用で解説しています。
筆界は「合意で決めるもの」ではない
法務省の筆界特定制度のページは、筆界を「土地が登記された際にその土地の範囲を区画するものとして定められた線」と説明し、所有者同士の合意などによって変更することはできないとしています。筆界特定制度では、筆界調査委員という外部の専門家が実地調査や測量を行って意見を出し、筆界特定登記官がそれを踏まえて筆界を特定します。
ここでも、AIが出すのは「候補」までです。もともとどこに線があったのかを、資料と現地から説明できる形で示すことが求められ、その説明に責任を持つのは人です。土地家屋調査士法第3条が筆界特定の手続の代理を調査士の業務として定めているのは、この判断の専門性のためです。
AIを業務に入れるときの注意
- 入力する情報を決める:依頼者の氏名・住所や未公表の取引情報は、第24条の2の秘密保持の対象になり得ます。入力データが学習に使われない設定や契約のサービスを選び、入力してよい情報の範囲を事務所で決めておきます。
- 出力は下書きとして扱う:OCRの読み取りや自動作図の結果は、元の資料と照らして点検します。数字の読み違いは面積や座標の誤りに直結します。
- 業務を外に丸投げしない:AIサービスの事業者に、調査・測量や申請書類の作成をそのまま請け負わせる形は、第68条との関係で問題になり得ます。
なお、法務省は2026年8月21日にAI等の法務業務支援サービスと弁護士法第72条の関係についての指針を公表しています。これは弁護士法についてのもので、土地家屋調査士法を直接扱うものではありませんが、AIサービスと士業の独占業務の線引きを国が具体的に示し始めた例として参考になります。
これから目指す人・現役の人にとっての意味
目指す人
測量の計算や作図の多くはソフトウェアが担うようになりましたが、資格の価値は「現地で筆界を確かめ、その結果に責任を持てる」ことにあります。地籍調査が終わっていない地域が多いことは、裏を返せば、筆界を明らかにする専門家の仕事が長く続くことを意味します。
現役の人
資料の読み取り、図面の下書き、事件の管理といった事務の時間を記録し、どこにAIを入れるかを決めるのが近道です。地図XMLのような公開データを扱うには、Pythonなどで少しデータを加工できると選べる道具が増えます。
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よくある質問
Q. 土地家屋調査士の仕事はAIに奪われますか?
奪われる可能性は低いです。表示に関する登記のための調査・測量と申請手続の代理などは、土地家屋調査士法第68条により調査士会に入会した土地家屋調査士と調査士法人でなければ業として行えません。AIで速くなるのは資料の読み取りや図面の下書きで、現地での境界確認や立会い、筆界の判断は人に残ります。
Q. AIで測量や登記の申請書類は自動で作れますか?
下書きや計算、作図の自動化は進んでいますが、内容を確定して申請手続を代理するのは土地家屋調査士です。土地家屋調査士法第3条は、登記に必要な調査・測量、申請手続の代理、法務局に提出する書類の作成を調査士の業務と定めています。AIの出力は元の資料や現地の結果と照らして点検する前提で使います。
Q. 法務省の地図データがあれば境界はわかりますか?
わかりません。法務省は登記所備付地図の電子データをG空間情報センターで無償公開していますが、このデータは利活用のためのもので証明機能はなく、地図証明書・図面証明書の代わりにはならないと明記しています。境界の確認には法務局の証明資料と現地調査が必要です。
Q. 土地家屋調査士に将来性はありますか?
表示に関する登記の申請は不動産登記法で義務づけられており、新築や分筆などがある限り需要は続きます。また国土交通省によると、令和7年度末時点の地籍調査の進捗率は全国で53%で、都市部や林地で遅れています。境界が公的に調べ終わっていない土地が多いことも、専門家の仕事が続く理由です。

