「NVIDIAに死角はないのか?」AI半導体王者が直面する意外なリスクと課題

 

はじめに:無敵に見えるNVIDIAの実情

AI革命の中心にいるNVIDIA。2024年7月には売上高が300億ドルに達し、時価総額は一時3兆ドル(約450兆円)を超えて世界1位となったAI半導体のパイオニアです。しかし、この圧倒的な成功の陰には、意外にも多くのリスクと課題が潜んでいます。

本記事の結論(TL;DR) NVIDIAは現在AI市場で圧倒的な地位を築いているものの、地政学リスク、競合他社の追随、AIブームの持続性への疑問、顧客の自社チップ開発など、複数の重大な死角を抱えている。短期的には強固だが、中長期的には市場環境の変化への適応が成否を分ける。

1. 地政学リスクという最大の死角

中国市場からの事実上の締め出し

NVIDIAが直面する最も深刻な死角の一つが地政学リスクです。米商務省が4月に発表した対中輸出規制強化で主力の中国向けGPU「H20」が事実上販売停止となり、同社は初期在庫などに伴う55億ドルの費用を一括計上する方針を示したという事態が発生しています。

中国はNVIDIAにとって第4の市場であり、FY2025の地域別売上では171億ドル(13%)を占める重要な市場でした。この市場の喪失は、単純な売上減少以上の意味を持ちます。

規制の多段化による波及効果

5月15日以降にAI Diffusion Frameworkが本格運用されると、Tier 2クォータ管理次第で欧州・ASEAN需要が冷え込む可能性があり、追加措置で中国以外のTier 3指定国が増えれば、NVIDIAの海外売上13%超が波及的に圧迫される恐れがあると指摘されています。

密輸という予想外の問題

米国の輸出規制を回避し、中国が高度なAI向けプロセッサNvidia H200 GPUを密輸入している現状が明らかとなり、匿名の中国人実業家は200個のH200 GPUを搭載したサーバーを入手したと公言している状況は、規制の実効性に疑問符を投げかけています。

2. 激化する競合との技術競争

AMDの猛烈な追い上げ

長年NVIDIAの後塵を拝してきたAMDが、本格的な挑戦を開始しています。AMDは2023年12月にInstinct MI300シリーズ・アクセラレータのリリースを発表し、このアクセラレータはNVIDIAの同アクセラレータよりも安価で、高速である。AMDのCEOであるリサ・スー博士は、このチップだけで、2024年に少なくとも10億米ドルの売上があると予測し、マイクロソフト・Meta・OpenAIは、Instinct MI300Xをデータセンターで使用すると表明したという状況です。

Intelの逆襲と新興企業の台頭

IntelのNervana NNP L-1000は、最初から「ディープラーニングの学習だけに特化」して設計されており、GPUに比較してより少ない電力でより高速に学習することができる特徴があります。また、新興チップメーカーのCerebrasは2023年7月、NVIDIAの技術を使用したシステムに代わるものを提供するため、9台のAIスーパーコンピューターのうち1台目を構築したと発表したなど、新しいプレイヤーも参入しています。

カスタムチップによる脅威

最も深刻な脅威は、大手顧客による自社チップ開発です。エヌビディアの4大顧客(現在エヌビディアの利益の約40%を占める、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット、メタの4社)が、エヌビディアH100システム、もしくは次世代チップBlackwell(2025年)やRubin(2026年)に代わる低価格の代替品の開発に成功した場合の脅威が指摘されています。

3. AIバブル懸念と市場の持続性

バブル論争の根拠

NVIDIAの時価総額は2024年6月には約3兆ドル、日本円で約450兆円以上と、日本の国家予算の約4倍まで膨らんだ。一時はMicrosoftの時価総額を抜き、世界一位となったが、さすがに誰が見ても大きすぎるという状況に対し、専門家の間でバブル懸念が高まっています。

過去のバブルとの類似性

Nvidiaの急成長は、2000年のドットコムバブル期のCiscoと比較されることが増えている。Ciscoは当時のインターネットブームを背景に、通信インフラの中核を担う企業として高い評価を受けていたが、バブル崩壊後に株価は80%以上下落し、現在に至るまでピーク時の水準には戻っていないという歴史的教訓があります。

成長率の鈍化予測

アナリストは、2024年1月期に続き、2025年1月期も売上高で50%を超える高い成長を期待しているが、成長はその後減速し、2027年1月期の成長率は売上高とEPS(1株あたりの利益)の両方で一桁になると予想されている。つまり、NVIDIAが現在直面している生成AIブームの恩恵は4年間かけて収束する一時的なものであると見られている状況です。

4. ビジネスモデルの構造的リスク

利益率維持の困難性

下は利益率の実績です。GPUの供給不足を背景に、顧客が価格を問わずに数量を確保する動きにより、粗利益率が74%まで上昇した。しかし、これ以上の上昇余地は限定的であり、GPUの需供が緩和した際にこの水準を維持できるかが試されるという課題があります。

顧客集中リスク

データセンターGPUの市場では、クラウドサービスプロバイダー大手数社が主要な顧客となっており、2023年の推定によると、NVIDIAのデータセンターGPUの主要顧客にはMicrosoft、Meta(旧Facebook)、Google、Amazonなどが含まれ、これらの企業が市場の大部分を占めている状況は、顧客集中リスクを意味します。

オープンソースAIモデルの脅威

オープンソースの世界でも最先端のAIモデルが次々と公開されており、特に注目されているのが、Meta(旧Facebook)が提供するLLaMAのようなモデルで、これらのモデルは、膨大なNVIDIA製GPUへの投資を背景に開発されたものだが、Metaは、オープンソース提供によるメリットを強調し、今後もこの方針を続けることを表明している動きは、将来的なトレーニング需要の減少につながる可能性があります。

5. 技術的課題と将来への不安要素

サプライチェーンの脆弱性

台湾製ユニットや中国調達部材には最大32%の関税が課される見通しで、サプライチェーンの”チャイナ+1”移行が一層加速する可能性がある。企業側はコスト上昇だけでなく、納期遅延や物流再設計の負担も迫られる状況があります。

TSMCとの関係性リスク

TSMCの2024年4〜6月業績を見ると、High Performance Computing部門の売り上げが前四半期から28.5%という驚異的な伸びを見せているが、TSMCは2024年4〜6月期から先端プロセスの値上げを断行しているなど、製造パートナーからのコスト圧力も高まっています。

6. 市場環境の変化への対応力

AIの実用化進展と需要の変化

要するに、こと生成AIの現在の市場予測は割と非現実的なのである。一言で言えば「バブル」であるという専門家の指摘もあり、AI需要の持続性に疑問符が付いています。

投資対効果への疑問

問題は、こうした動きをどこまで企業がフォローアップできるのか、あるいはする必要があるのか、である。要するに投資対効果に見合う成果を現状の生成AIは上げているのか?という根本的な問題提起もなされています。

まとめ:NVIDIAの死角と今後の展望

短期的展望(1-2年)

  • 強固な地位は継続:CUDAエコシステムと技術的優位性により、短期的には市場リーダーの地位を維持
  • 地政学リスクの影響:中国市場の喪失による売上減は避けられないが、他地域での成長でカバー可能
  • 競合圧力の増大:AMDやIntelの挑戦により価格競争が激化する可能性

中長期的展望(3-5年)

  • 市場の成熟化:AI需要の一巡により成長率は鈍化する見込み
  • 顧客のカスタムチップ移行:大手クラウド事業者の自社チップ開発が本格化
  • 新技術への適応:次世代AI技術への対応が競争力維持の鍵

投資家・事業者への示唆

  1. 過度な楽観は禁物:現在の高い評価は将来の成長を織り込んでおり、期待に応えられない場合のリスクは大きい
  2. 分散投資の重要性:AI分野全体への投資を検討し、NVIDIA一社への集中投資は避けるべき
  3. 長期的視点の必要性:短期的な変動に惑わされず、AI技術の本質的な発展を見極めることが重要

結論として、NVIDIAは現在圧倒的な地位にありながらも、地政学リスク、競合の追い上げ、市場の持続性への疑問など、複数の重要な死角を抱えています。「無敵」に見える同社も、実際には多くの課題に直面しており、これらへの対応が今後の成長を左右することになるでしょう。投資家や事業者は、こうしたリスクを十分に理解した上で、戦略的な判断を下すことが求められます。

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