SESはやめとけ?理由の真偽とブラック・ホワイトの見分け方

「SESはやめとけ」という声には、当たっている部分と、誤解や誇張が混ざった部分があります。多重の商流で単価が削られる、案件を自分で選べない、といった構造は実在します。一方で「SESは違法」「待機中は給料が出なくて当然」といった話は、法律の決まりと照らすと正しくありません。

この記事では、やめとけと言われる理由を一つずつ確かめたうえで、ブラックなSES企業とホワイトなSES企業を見分ける5つのチェックポイントを、確認の仕方と根拠になるルールつきでまとめます。これからSES企業に入るかどうかを決める人が、入社前に確かめるべきことを中心にしています。SESそのものの仕組みは SESとは?仕組みと働き方の基本 で解説しています。

SESが「やめとけ」と言われる5つの理由

1. 商流が深いほど、エンジニアに届くお金が減る

SESでは、発注元の企業から元請け、二次請け、三次請けと契約が連なることがあります。間に入る会社がそれぞれ取り分を差し引くため、商流が深い案件ほどエンジニアの所属会社に入る単価は下がり、給与の原資も小さくなります。何割が差し引かれるかは契約ごとに違い、業界全体の公的な統計はありません。単価の仕組みと試算は SES単価の相場と仕組み にまとめています。

2. 案件を自分で選べないことがある

どの現場に入るかは、営業担当と常駐先の都合で決まることが少なくありません。テストや運用監視など、希望と違う工程が長く続くと「スキルが伸びない」と感じやすくなります。いわゆる案件ガチャです。

3. 待機や契約終了で、立場が不安定に見える

常駐先との契約が終わると、次の案件が決まるまで「待機」になることがあります。待機中の扱いが曖昧な会社だと、給与を減らされたり、自主退職を促されたりする不安がつきまといます。

4. 労働環境が現場によって大きく違う

残業の多さや職場の雰囲気は、所属会社ではなく常駐先で決まる部分が大きく、同じ会社の社員でも当たり外れが出ます。所属会社の上司が現場を見ていないため、問題が起きても気づかれにくい構造です。

5. 評価の基準が見えにくい

普段の働きぶりを見ているのは常駐先の人で、評価するのは所属会社の上司です。何をすれば昇給するのかが示されていないと、どれだけ頑張っても報われないという感覚につながります。

よく聞く話の真偽を仕分ける

ネットで見かける主張を、法律や公的資料で確かめられる範囲で仕分けました。

よく言われること実際のところ根拠
SESは違法・グレーな働き方準委任契約で技術者を常駐させること自体は違法ではない。違法になるのは、常駐先が直接作業を指示する「偽装請負」や、他社の社員をさらに別の会社へ送り込む労働者供給にあたる場合37号告示・職業安定法第44条
案件がない待機中は無給でも仕方ない会社の都合で仕事を与えられないなら、労働基準法第26条で平均賃金の6割以上の休業手当が必要。無給は違法の疑いがある労働基準法第26条
IT業界だから残業は青天井36協定があっても原則は月45時間・年360時間まで。特別条項でも年720時間、月100時間未満などの上限がある時間外労働の上限規制
同一労働同一賃金で、常駐先の社員と同じ給料になるはず同じ会社の中での正社員と非正規(パート・有期・派遣)の待遇差を対象にしたルールで、常駐先の社員と給与を揃える仕組みではない厚生労働省の同一労働同一賃金特集
SESの経歴は転職で評価されない評価されるのは雇用形態より「何を担当し、何ができるか」。説明できる実績があれば経歴として通用する(定性的な傾向。公的統計なし)
SESではスキルが一切つかない半分は本当。案件によって差が大きく、選べない会社にいると伸びにくい。選べる会社か、選べない中で何を積むかで変わる(定性的な傾向。公的統計なし)

つまり、「やめとけ」の正体はSESという働き方そのものより、ルールを守らない会社や、案件を選ばせない会社にあたることだと言えます。次の章では、それを入社前に見分ける方法を扱います。

ブラックとホワイトの見分け方:5つのチェックポイント

求人票や会社のサイトだけでは分からないことが多いので、面接や内定後の面談で質問して、できれば書面で確かめるのが確実です。

1. 商流の深さ:何次請けの案件が多いか

「主な案件は発注元と直接契約していますか。何次請けにあたるものが多いですか」と聞きます。元請けや一次請けの比率を具体的に答えられる会社は、営業力があり、単価交渉もしやすい傾向があります。答えをはぐらかす、「案件によります」だけで終わる場合は注意が必要です。主な取引先や常駐先の業種を公開している会社もあるので、SES企業一覧と評判 も参考にしてください。

2. 待機中の給与:満額か、休業手当か

「案件の切れ目で待機になったとき、給与はどうなりますか」と聞きます。ホワイトな会社は、待機中も通常どおりの給与を払い、その間の学習や社内業務を決めています。ブラックな会社では「待機中は給与が減る」「自宅待機で無給」といった答えが返ってきます。会社都合の休業には労働基準法第26条で平均賃金の6割以上の休業手当が必要なので、それを下回る説明があれば、その時点で候補から外して構いません。

「待機中は有給休暇を使ってもらう」という説明にも注意してください。年次有給休暇は、原則として労働者が請求した時季に与えるものと労働基準法第39条に定められています。会社が時季を決められるのは、労使協定による計画的な付与や、年5日を確実に取らせるための時季指定などに限られます。

休業手当の計算方法や、待機中に研修を命じられた場合の扱いは SESの待機期間と給料の解説 で条文に沿って説明しています。

3. 案件の選択権:断れるか、希望を聞く仕組みがあるか

「希望しない案件を断ることはできますか」「次の案件を決めるとき、本人の希望をどう聞いていますか」と聞きます。案件の候補を複数見せて本人が選べる、断っても評価が下がらない、と具体的に説明できる会社は、キャリアを考えてくれる可能性が高いです。「最初の数年は会社が決める」と言い切る会社は、テストや運用だけが続くリスクを覚悟する必要があります。

4. 評価制度:誰が、何を基準に評価するか

「評価は誰がしますか」「昇給の基準と、直近の昇給の実績を教えてください」と聞きます。等級ごとの役割や、単価と給与の関係を社員に示している会社なら、何をすれば給与が上がるかが分かります。常駐先からの評判だけで決まる、基準が文書になっていない、という会社では、頑張りが給与に反映されにくくなります。

会社によっては、自分の案件の単価や、単価のうち給与に回る割合を社員に開示しているところもあります。開示の有無だけでブラックかホワイトかは決まりませんが、開示している会社なら、単価の高い案件に入れば給与がどう変わるかを自分で計算できます。

5. 契約形態:準委任か派遣か、指示は誰が出すか

「常駐先との契約は準委任ですか、派遣ですか」「現場で作業の指示を出すのは誰ですか」と聞きます。準委任(いわゆるSES契約)なら、作業の指示は所属会社側の責任者が出すのが原則です。常駐先の社員から直接指示を受け、勤怠も常駐先が管理しているなら、契約の形と実態がずれている可能性があります。厚生労働省は、契約書の名前ではなく実態で判断するとしています(厚生労働省「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド(37号告示と疑義応答集)」)。

契約の種類ごとの違いは次のとおりです。SESで一般的なのは準委任契約です。

契約の種類何を約束する契約か現場で作業を指示するのは注意点
準委任(SES契約)決められた業務を行うこと。完成した成果物までは約束しない所属会社(受託側)の責任者常駐先が直接指示すると偽装請負の疑い
請負仕事を完成させること所属会社(受託側)成果物に責任を負う。常駐先の直接指示は同じく不可
労働者派遣派遣先の指示のもとで働くこと派遣先派遣元は労働者派遣事業の許可が必要

準委任と請負の違いは民法(第632条・第643条・第656条)、請負と派遣の区別は厚生労働省の37号告示で定められています。自分の契約がどれか分からない場合は、所属会社に聞けば答えられるはずです。答えられない会社は、それ自体が判断材料になります。

5つを表にまとめると次のとおりです。

項目ホワイトなSES企業の答えブラックなSES企業のサイン
商流の深さ元請け・一次請けの比率や主な取引先を具体的に答える何次請けか答えない、「案件による」で終わる
待機中の給与通常どおり支払う。待機中にやることも決まっている減額・無給・自主退職の打診
案件の選択権候補を複数示し、断れる会社が一方的に決める、断ると評価が下がる
評価制度基準が文書化され、昇給の実績を示せる基準がない、常駐先の評判だけで決まる
契約形態準委任か派遣かを説明でき、指示系統が明確常駐先から直接指示・勤怠管理されるのが当たり前

質問しにくいときの聞き方

面接で待遇のことばかり聞くと印象が悪くなるのでは、と心配する人は多いはずです。その場合は、一次面接では仕事の中身(どんな案件が多いか、案件はどう決まるか)を中心に聞き、給与や待機の扱いは内定後の条件面談で確認する、と分けると自然です。内定後の面談で条件を確かめるのは当然のことで、それを嫌がる会社なら、入社後に相談しても同じ対応になると考えてよいでしょう。

求人票と会社のサイトで分かるサイン

面接の前でも、公開されている情報からある程度は見当がつきます。どれか一つで決めつける必要はありませんが、いくつも重なるなら慎重になってください。

  • 給与の幅が極端に広く、どの条件で上限になるのかが書かれていない
  • 固定残業代が含まれているのに、何時間分でいくらか、超えた分を払うかが書かれていない
  • 仕事内容が「さまざまなプロジェクトで活躍」など抽象的で、業界や技術がまったく書かれていない
  • 同じ求人が一年中、条件を変えずに出続けている
  • 会社のサイトに事業内容や主な取引先の説明がほとんどない

反対に、案件の例と使う技術、研修の期間と内容、評価と昇給の仕組み、待機中の扱いまで書いている会社は、それだけ社員に説明する用意があると言えます。

未経験者向けの求人なら、研修の期間と中身、研修中の給与、研修のあと最初にどんな案件に入る人が多いかも確かめておきたい点です。研修が数日の座学だけで、すぐに現場に出される場合は、最初の案件でつまずきやすくなります。

入社前に書面で確かめること

会社には、労働契約を結ぶときに賃金や労働時間などの労働条件を明示する義務があります(労働基準法第15条)。明示された条件が事実と違う場合、労働者はすぐに契約を解除できると同じ条文に定められています。

2024年4月からは、雇い入れ直後の就業場所と業務内容に加えて、将来の「変更の範囲」も明示することになりました。求人の段階でも、業務と就業場所の変更の範囲を示す必要があります。SESの場合、就業場所が「客先」とだけ書かれていないか、変更の範囲がどこまで広く書かれているかを確かめておくと、入社後の配属で揉めにくくなります。

  • 基本給と手当の内訳、固定残業代の有無と時間数
  • 就業場所と業務内容、それぞれの変更の範囲
  • 待機中の給与の扱い(口頭で聞いた内容が書面にあるか)
  • 試用期間の長さと、その間の条件

入ってからブラックだと分かったときの対処

まずは記録を残します。勤務時間の記録、給与明細、労働条件通知書、指示を受けたメールやチャットは、後から相談するときの材料になります。

相談先としては、各都道府県の労働局や労働基準監督署にある総合労働相談コーナーが使えます。解雇、賃金の引き下げ、ハラスメントなど労働問題全般を扱い、予約不要・無料です。心身の不調が出ているなら、仕事の問題より先に体を優先してください。厚生労働省の「こころの耳」では、働く人向けの電話・SNS・メール相談を匿名・無料で受け付けています。

入社を決める前に比べておきたい選択肢

未経験や新卒でIT業界に入るとき、SESだけが入口ではありません。求人の数や採用の基準は時期によって変わるので、いくつかの形を並べて比べてから決めると後悔が減ります。

入口最初に担当しやすい仕事入社前に確かめたいこと
SES企業常駐先でのテスト、運用、開発の一部5つのチェックポイント(商流・待機・選択権・評価・契約)
受託開発・SIer自社や客先での開発、テスト、資料作成自社で上流工程を担うか、実際は再委託が多くないか
自社開発企業自社サービスの機能追加や改修未経験者の育成体制、配属先が客先常駐になる可能性はないか
事業会社の情報システム部門社内システムの運用、問い合わせ対応、ベンダーとの調整開発を自社でするか、外部に任せるか

どの入口でも、最初の数年で「何を担当し、何ができるようになったか」が次の選択肢を決めます。SESを選ぶなら、案件を選べる会社かどうかが、その数年の中身を大きく左右します。

プログラミングスクールを修了してSESへの就職を考えている人は、スクールの転職支援の仕組みや「就職率」の読み方も含めて プログラミングスクールからSESへ|入る前に知ることと伸び悩んだときの道 で整理しています。

口コミや評判の読み方

転職口コミサイトやSNSの評判は参考になりますが、書いているのは一部の社員や元社員で、辞めた直後の不満が強く出やすいことも念頭に置いてください。一つひとつの感想より、「待機中の給与」「案件の決め方」「評価」について、時期の違う複数の書き込みが同じことを言っているかを見ると、実態に近づけます。気になる点があれば、面接で「口コミでこう見たのですが、実際はどうですか」と率直に聞くのも一つの方法です。きちんと説明できる会社かどうかが分かります。

すでにSESで働いていて行き詰まっている人へ

この記事は入社前の判断を中心にまとめました。すでにSESで働いていて「このままでは人生終了なのでは」と感じている人は、SESで「人生終了」と感じているあなたへ で現状の整理の仕方と抜け出す道を詳しく扱っています。転職を具体的に考えているなら SESからの転職ガイド、独立を考えているなら SESからフリーランスへの転身ガイド が次の一歩になります。

入社して1〜2年がたち、転職するか続けるかで迷っている人は SES2年目で転職すべき?判断の目安と年収・単価の見方 も参考にしてください。

SESを選ぶ利点もある

ここまで注意点を中心に書きましたが、SESには利点もあります。未経験者を採用して研修から始める会社が多く、IT業界に入る入口になっていること。短い期間で複数の業界やシステムに触れられ、自分に合う分野を見つけやすいこと。現場ごとに違うやり方を見られるので、後で転職したときに比較の視点を持てることです。

大事なのは、利点を得られる会社かどうかです。案件を選べず、待機の扱いも曖昧な会社では、こうした利点はほとんど得られません。上の5つのチェックポイントは、利点を得られる会社を選ぶための基準でもあります。

それでもSESが合う人・合わない人

合う人合わない人
未経験からIT業界に入り、まず実務経験を積みたい1つのプロダクトを長く育てたい
いろいろな業界や現場を見てから専門を決めたい勤務地や職場の人間関係が変わるのが強いストレスになる
案件を選べる会社を見極め、期限を決めて経験を積める会社に案件を任せきりで、自分では学習時間を取れない

SES事業を運営する側から見た仕組みは SES事業開業マニュアル で扱っています。会社の利益がどこで生まれるかを知ると、面接での質問の意味も分かりやすくなります。

独学がつらいなら、無料講座で試してから決める

案件を選べるようになるには、「この技術ならできます」と言える材料が必要です。現場で触れられない技術は、業務外で学ぶしかありません。

  • 無料Python入門講座:Pythonの基礎を無料で一通り試せます。学習が続くかどうかを、お金をかける前に確かめられます。
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まとめ

SESが「やめとけ」と言われる理由のうち、商流の深さや案件を選べないことは実際の構造です。一方で、SESが違法だ、待機中は無給でも仕方ない、残業に上限はない、といった話は法律の決まりと合いません。

会社を選ぶときは、商流の深さ、待機中の給与、案件の選択権、評価制度、契約形態の5つを質問し、答えを書面で確かめてください。答えをはぐらかす会社より、課題も含めて具体的に説明する会社のほうが、入社後に相談したときにも向き合ってくれるはずです。

この記事で参照した公的資料

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