サウジアラビアが目指す「ゲーム大国」への野望|総額380億ドルのeスポーツ巨額投資の全貌
石油大国からゲーム大国へ:サウジアラビアの壮大な挑戦
産油国として知られるサウジアラビアが今、世界のeスポーツ・ゲーム業界を大きく揺るがしています。2025年には米国大手ゲーム企業エレクトロニックアーツ(EA)を**550億ドル(約8兆円)**で買収すると発表し、業界史上最大規模のM&Aとして世界中を驚かせました。
この動きは決して単発的なものではありません。サウジアラビアは国家戦略として、**総額380億ドル(約5兆円)**という巨額の資金をゲーム・eスポーツ産業に投じ、2030年までに「ゲームとeスポーツの世界的ハブ」になることを宣言しています。
サウジアラビアのeスポーツ投資:驚異的な数字と実績
主要な投資実績
サウジアラビアの政府系ファンド(PIF)傘下のSavvy Games Groupが主導する投資戦略は、以下のような配分となっています:
- 大手パブリッシャーの買収:133億ドル
- ゲーム会社のマイノリティ株式取得:187億ドル
- パートナーシップ推進:53億ドル
- スタートアップ支援:5億ドル
具体的な買収・投資事例
2022年
- ESL(世界最大級のeスポーツ運営会社)とFACEITを10億5000万ドルで買収
- SNKの株式100%を取得
- 任天堂、カプコン、コーエーテクモなど日本企業の株式を取得
2023年
- Scopelyを49億ドルで買収
- Embracer Groupに10億ドル規模の投資
2025年
- Electronic Arts(EA)を550億ドルで買収発表
- NianticのPokémon GOなどのゲーム事業を35億ドルで買収
なぜ今、サウジアラビアがeスポーツに巨額投資するのか
「サウジ・ビジョン2030」が描く未来
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する国家開発プログラム「サウジ・ビジョン2030」が、この戦略の根幹にあります。
石油依存からの脱却という課題
サウジアラビアは他の湾岸諸国とは異なり、約2000万人という大きな国民人口を抱えています。これは、UAEやカタールの約100万人と比べて20倍の規模です。政府系ファンドの投資収益だけでは国民を養えないため、新産業の創出が必須となっています。
数値目標:2030年までに達成すべき目標
- ゲーム会社250社の国内設立
- 39,000人の雇用創出
- GDP貢献額を1兆9200億円に引き上げ
- 国民1人当たりのプロゲーマー数で世界トップ3入り
- AAA級ゲームタイトルの開発
若い人口とゲーム文化の親和性
サウジアラビアの国民の大多数は35歳以下の若年層で、1日のビデオゲームプレイ時間が世界第2位という驚異的なデータがあります。また、サウジアラビアにおける女性のeスポーツ参加率は18%と、グローバル平均の5%を大きく上回っています。
世界最大規模のeスポーツイベント開催
Esports World Cup 2025
サウジアラビアの首都リヤドで開催された「Esports World Cup 2025」は、eスポーツ史上最大規模の大会となりました。
大会の規模
- 賞金総額:7000万ドル(約100億円)以上
- 参加選手:2000人以上
- 参加クラブ:200以上
- 開催期間:7週間(7月7日~8月24日)
- 視聴者数:5億人
- 総視聴時間:2億5000万時間
競技タイトル(全25種目)
- Apex Legends、Call of Duty
- ストリートファイター6、鉄拳8
- オーバーウォッチ2
- サッカーゲーム、ストラテジーゲーム
- チェスなど
大会期間中、リヤドへの訪問者数は前年同期比で29%以上増加し、観光・経済への波及効果も顕著でした。
オリンピックeスポーツゲームズ2027
国際オリンピック委員会(IOC)とサウジアラビアのNOC(国内オリンピック委員会)は12年間のパートナーシップを締結し、2027年に第1回Olympic Esports Gamesをサウジアラビアで開催することを発表しました。
これは、eスポーツがオリンピックとして正式に認められる歴史的な瞬間となります。
壮大なインフラ整備計画
キディヤ・シティ「ゲーミング&eスポーツ地区」
サウジアラビア国内に建設予定のエンターテインメント複合都市「キディヤ・シティ」には、世界初となる50万平方メートルを超えるゲーミング&eスポーツ地区が建設されます。
これは国家主導だからこそ実現可能な大規模プロジェクトで、ゲーム開発スタジオ、eスポーツアリーナ、教育施設、インキュベーション施設などが集約される予定です。
インフラの改善
eスポーツに必要な通信インフラの整備も国を挙げて進められており、特に遅延時間の改善に力を入れています。
日本のゲーム産業との深い関係
日サウジの戦略的パートナーシップ
2017年に制定された「日・サウジ・ビジョン2030」には、エンターテインメントやメディアに関する協力関係が含まれています。
主な取り組み
- 2021年から「日本・サウジアラビアeスポーツマッチ」を開催
- 2023年に両国eスポーツ団体間で人材育成の覚書を締結
- 日本企業(セガ、ソニー、バンダイナムコ)が主要イベントに参加
日本企業への投資
サウジアラビアは日本のゲーム企業に積極的に投資しています:
- SNKの株式100%保有
- 任天堂、カプコン、コーエーテクモなどの株式取得
- 2025年1月にはSBIホールディングスと協業に向けた基本合意を締結
SBIホールディングスとの協業内容
- 日本のゲーム会社をサウジアラビアに紹介
- サウジアラビア・MENA地域への市場参入支援
- ローカライズやマーケティングのサポート
キーパーソン:ファイサル・ビン・バンダル王子
サウジアラビアのeスポーツ戦略を語る上で欠かせないのが、ファイサル・ビン・バンダル・アル=サウード王子です。
主な役職
- サウジアラビアeスポーツ連盟会長
- アラブeスポーツ連盟会長
- 国際eスポーツ連盟副会長
- Savvy Games Group CEO
ファイサル王子は大のゲーム好きとして知られ、2018年には日本の「EVO Japan 2018」をお忍びで視察に訪れています。また、「SASUKE」「風雲!たけし城」のライセンス取得のために来日するなど、日本のコンテンツへの関心も高いことで知られています。
eスポーツがもたらす経済効果
GDP押し上げ効果
サウジアラビアのeスポーツ産業は、GDPを約2兆円弱押し上げると試算されています。2030年までにGDP貢献額を1兆9200億円にするという目標は、十分に実現可能な数字として評価されています。
雇用創出と人材育成
39,000人の雇用創出を目指すサウジアラビアは、人材育成にも注力しています:
- タレントアカデミーの設立
- インキュベーター施設の運営
- 国際的なゲーム会社とのパートナーシップによる技術移転
- 教育プログラムの充実
サウジアラビアが抱える課題と批判
スポーツウォッシングの指摘
一方で、サウジアラビアのeスポーツ投資には「スポーツウォッシング」(スポーツを利用して社会問題を覆い隠す行為)という批判も存在します。
国際社会からは、サウジアラビア国内の人権問題や社会的価値観に関する懸念が指摘されており、華々しい話題の裏に潜む課題についても認識する必要があります。
コンテンツへの影響懸念
EAの買収に関しても、サウジアラビアの社会規範が将来的にゲームコンテンツに影響を与えるのではないかという懸念が表明されています。特に、LGBTQフレンドリーな要素が削除される可能性などが議論されています。
また、プライバシーの観点から、アメリカに拠点を置く大手ゲームパブリッシャーにサウジアラビアが関与することへの警戒感も示されています。
今後の展望:2030年に向けて
継続的な投資
Savvy Games GroupのCEO、ブライアン・ウォード氏は「私たちは一時停止はしません」と明言しており、今後も積極的な投資を継続する姿勢を示しています。
グローバルハブとしての地位確立
サウジアラビアは、その地理的な利点(ヨーロッパ、アジア、アフリカの中間地点)を活かし、グローバルなゲーム・eスポーツのハブになることを目指しています。
2030年までのロードマップ
- 世界トップクラスのeスポーツイベントの定期開催
- 中東・北アフリカ(MENA)地域のゲーム市場の中心
- 国際的なゲーム企業の誘致とローカル企業の育成
- AAA級ゲームタイトルの開発と世界展開
まとめ:石油からゲームへの大転換
サウジアラビアの総額380億ドルという巨額のeスポーツ投資は、単なるビジネス投資ではありません。石油依存経済からの脱却という国家の存亡をかけた戦略であり、若い世代の雇用創出と経済多様化を実現するための重要な柱となっています。
賞金総額100億円のEsports World Cupや2027年のオリンピックeスポーツゲームズなど、次々と打ち出される施策は、サウジアラビアの本気度を示しています。
日本のゲーム産業にとっても、サウジアラビアとの協業は新たな成長機会となる可能性があります。MENA地域という未開拓市場へのゲートウェイとして、また、世界最大規模のeスポーツイベントのパートナーとして、今後の動向から目が離せません。
オイルマネーがゲーム産業を変える――その壮大な実験が、今まさに中東の地で始まっています。サウジアラビアが2030年までに「ゲーム大国」としての地位を確立できるのか、世界中が注目しています。
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