インターネット投票の世界動向と日本の現状【2025年最新版】- エストニア成功事例から学ぶ選挙のデジタル化
はじめに
デジタル化が社会のあらゆる分野に浸透する中、選挙制度もその変革の波に直面しています。インターネット投票(ネット投票)は、投票率の向上や有権者の利便性向上を目的として、世界各国で導入や検討が進められています。
2023年のエストニア議会選挙では、インターネット投票者数は313,514人に達し、有権者の32.5%、投票者の51.1%がインターネット投票を選択しているなど、一部の国では既に成果を上げています。
本記事では、世界各国のインターネット投票の最新動向と、日本における取り組みの現状について詳しく解説します。
インターネット投票とは
インターネット投票とは、有権者がインターネットを介して遠隔地から投票を行う仕組みです。従来の投票所での紙による投票や電子投票機による投票とは異なり、自宅や職場、海外からでもオンラインで投票できる革新的なシステムです。
インターネット投票と電子投票の違い
多くの人が混同しがちですが、インターネット投票と電子投票は異なる概念です。
- 電子投票:投票所に設置された専用端末で投票する方法
- インターネット投票:インターネット経由で遠隔から投票する方法
世界のインターネット投票導入状況
エストニア:世界最先端の事例
エストニアは2005年に世界で初めて全国規模のインターネット投票を導入した国として知られています。
エストニアの特徴
エストニアでは、2005年の地方議会選挙以降、インターネット投票が一度も中断することなく続けられている
主な特徴は以下の通りです:
- 全有権者対象:世界で唯一、国政選挙における全有権者がインターネット投票を利用可能
- 国民ID活用:すべての国民に配布されるICチップ付きIDカードで本人認証
- 期日前投票として実施:選挙日の10日前から前日まで投票可能
- 何度でも投票可能:同一IDで複数回投票でき、最後の投票が有効
- PCとモバイルの併用:PCから投票し、モバイル端末で投票内容確認が可能
利用状況の推移
エストニアのインターネット投票の利用率は着実な成長を続けており、初めて導入された2005年の地方選挙では投票者の1.9%にすぎなかったが、2023年には51.1%にまで上昇した
年齢層別の利用状況
インターネット投票数の年齢層別分布をみると、デジタルネイティブ世代である若年層(18-34歳)が79,574人、働き盛りの中年層(35-54歳)が129,312人、55歳以上の層でも104,628人がインターネット投票を利用しており、全世代でインターネット投票が普及している
スイス:慎重な再開への道
スイスでは2003年にインターネット投票を実現するための法改正を行い、各州で限定的な試験運用を開始しました。
スイスの経緯
2019年は任期満了に伴う国政選挙の年で、インターネット投票の実施が計画されていた。スイスポストは、投票システムのソースコード公開と5万米ドルの報奨金をかけた公開ペネトレーションテストを実施した。すると豪メルボルン大学とスイスのベルン応用化学大学のセキュリティ研究者が、スイスポストシステムのソースコードの欠陥を指摘した
セキュリティ上の懸念により一時中断したものの、スイス連邦政府は安全性向上策を講じた上で2023年に電子投票試験を段階的に再開しました。同年6月の国民投票と10月の連邦選挙では、バーゼル市、ザンクトガレン、トゥルガウの3州で在外有権者など約6万5千人(有権者全体の約1.2%)を対象にオンライン投票が認められました
フランス:在外選挙での活用
フランスでは在外フランス人を対象としたインターネット投票を実施しています。
フランスの取り組み
フランス政府は2012年の下院(国民議会)議員選挙における在外フランス人向けとして、インターネット投票を初めて導入した。2013年の下院議員補欠選挙、2014年の領事評議員選挙においても同様に在外フランス人によるインターネット投票を認めている
ただし、2015、16年は国際的にサイバーアタックが問題となっており、2017年の下院議員選挙の際には、システムのセキュリティ上の懸念を理由に、フランス政府は全面的にインターネット投票を中止したが、その後段階的に再開されています。
アメリカ:限定的な導入
世界初のインターネット投票は2000年3月にアメリカのアリゾナ州で行われた民主党の大統領選挙予備選です。目的は日本と同じく投票率の向上でしたが、前回の投票数12,800人から86,000人以上となり、結果的に約7倍に跳ね上がったといいます
現在アメリカでは、連邦レベルでの導入はされていませんが、一部の州で海外駐在軍人向けなどの限定的な導入が行われています。
カナダ:地方レベルでの展開
カナダは広大な国土(998万平方キロメートル)に約4000万人の人口が点在しており、地理的要因から一部の地域では従来の投票方式が不便であるとの声がありました
インターネット投票の試みは2003年にオンタリオ州マーカム市の地方選挙で初めて導入されました。この成功を受け、他の地方自治体でも導入が進みました。2018年にはオンタリオ州とノバスコシア州で50以上の地方自治体がインターネット投票を採用しており、利便性が評価されていました
インターネット投票のメリット
利便性の向上
投票者にとっては、何より投票所へ出向く必要がなくなる。これは、高齢者や足が不自由な人にとっての大きな支援となるまた、台風や豪雨といった悪天候にも影響されにくく、仕事中や旅行先でも投票でき、外出が困難な高齢者でも投票できるようになるため、伸び悩む投票率を大幅に底上げする可能性があります
運営効率化とコスト削減
主催者側(日本の選挙管理委員会など)にとっては、投票所など運営の効率化や負担軽減につながる可能性がある。選挙の実施には多くの立会人を必要とし、投票権の確認なども人手により行うのが通常だ。また、オンラインで行うことで開票や集計作業の人的コストも著しく削減できることが期待される
迅速な結果発表
デジタルデータによる迅速、正確な投票結果の自動集計が可能になるため開票の作業スピードアップが見込めます
海外有権者の参政権確保
海外に駐在するフランス人の約80%は投票所から15㎞圏内に滞在しているが、選挙の際に投票するためだけに長距離を移動する必要がある駐在員もいるインターネット投票により、このような地理的制約を解決できます。
インターネット投票の課題とリスク
セキュリティリスク
オンラインで提供される様々なサービスと同様に、インターネット投票にもセキュリティリスクは存在する。投票内容や集計結果の改ざん、成りすましによる投票、さらにはサイバーアタック等によるシステムダウンなどが代表的な具体例である
いくらブロックチェーンを用いて投票データの秘匿性、真正性が担保できたとしても、インターネット投票を行うスマホなどの端末がハッキングされる可能性もあります。マルウェアなどにスマホが感染して投票先が意図的に変えられれば、改ざんされた投票内容がブロックチェーン上に記録されるリスクがあります
強制投票のリスク
投票所などの立会人がいない場所で投票するからこそ起こりうるリスクもある。例えば、投票者への脅迫行為などが考えられ、それらに対する対策も検討する必要がある
エストニアでは、最も特徴的なのは5.の何度でも投票できる点で、例えば脅迫され不本意な投票がなされたケースにおいて、有権者の意思で投票内容を書き換えできるという対策手段となっているという対策を講じています。
技術的課題
日本国内の有権者は1億人を超えており、一人ずつ誤りと重複がないようにするためには、広大なネットワークを敷き、莫大なデータを管理する必要があります。このような技術を導入するためには導入費用が高額になるので、このことも普及の足かせとなっています
デジタルデバイド
すべての有権者がインターネットやデジタル機器を使いこなせるわけではなく、デジタルデバイドによる不平等が生じる可能性があります。
日本におけるインターネット投票の現状
政府の取り組み
日本におけるインターネット投票の取り組みは1999年、旧自治省(現 総務省)の「電子機器利用による選挙システム研究会」の検討が発端です
総務省の調査研究
総務省では令和2年度から令和6年度まで、在外選挙インターネット投票システムの技術的検証及び運用等に係る調査研究事業を継続的に実施している
在外選挙での検討
2017年には、インターネット投票の課題を検討する有識者研究会が立ち上げられ、2018年には、在外投票を対象にネット投票の実施を検討するよう提言を行いました
これに基づいて総務省は2020年2月、在外投票の実証実験を東京都世田谷区や千葉市など全国5市区町で実施しています
議員立法の動き
2021年の通常国会では、野党から議員立法「インターネット投票の導入の推進に関する法案」が国会に提出されました。ネット投票導入を前提に、基本方針や工程を定めたプログラム法案で、導入目標を2025年に置かれています
地方自治体の取り組み
つくば市の先進的取り組み
すでに茨城県つくば市では、2024年10月の市長選・市議選で、国初のインターネット投票の実施を目指し、準備を進めている状況です
四條畷市の電子投票
四條畷市が実施した電子投票は、こうした負の歴史を払拭する形になった。きっかけは四條畷市の前市長がデジタル庁に実施を相談したことに始まる
政治家の見解
河野太郎デジタル大臣の発言
河野太郎デジタル大臣は、今後予定されている参院選での一部導入に意欲を示した
最後の3つ目は、複数の自治体の首長さんから、インターネット投票をやらせてほしいという声が寄せられていることがあります。背景には、地域によっては投票所の数をこれまでのように維持していくことがだんだんと困難になってきていている切実な現状があります
法制度の課題
投票に関する事項は公職選挙法によって定められており、インターネット投票を導入するためには法律の改正が必要です
現在の公職選挙法では、基本的に投票所での投票が前提となっており、インターネット投票を全面的に導入するには大幅な法改正が必要となります。
投票率向上への期待
日本の投票率の現状
総務省の調査によると、日本の国政選挙の投票率は2021年10月の第49回衆議院議員総選挙では55.93%、2022年7月の第26回参議院議員通常選挙では52.05%となっています
特に若年層の投票率の低さが問題となっており、20代の投票率は40%未満、30代の投票率も50%に届かない結果が続いています
エストニアでの投票率への影響
興味深いことに、エストニアではインターネット投票の利用率は右肩上がりとなっており、2019年の国政選挙では43.8%、2021年の地方選挙では46.6%を記録しています。一方、投票率は国政選挙65%弱、地方選挙50%台で概ね安定しています
エストニアの政治家からは、「数字的には投票率は変わっていない。しかし、インターネット投票により、海外に移住している方などは投票できる機会が与えられたと思う。」キースレル議員(祖国党)という発言もあり、投票率そのものよりも投票機会の平等化に効果があることが示唆されています。
セキュリティ対策の重要性
エストニアのセキュリティ対策
エストニアでは、システムの公平性や脆弱性を担保するために、インターネット投票に関するプログラムのソースコードまで公表しており、実際に誰でも閲覧、ダウンロードできます
ブロックチェーン技術の活用
近年注目されたのはモバイル投票アプリの試行です。2018年、中間選挙の西バージニア州で海外駐在軍人を対象にスマートフォンアプリを使ったブロックチェーン投票が米国初めて試みられました
ブロックチェーン技術は、投票の透明性と改ざん防止に効果的とされていますが、完全なセキュリティを保証するものではなく、継続的な技術開発と検証が必要です。
今後の展望
技術革新への期待
更に、エストニア政府は現状の電子投票における本人認証の更なる高度化を模索しているようだ。例えば、スマートフォンやタブレットなどのモバイル通信機器の普及に伴い、エストニア政府は、「モバイル投票の実現可能性調査とリスク分析」と呼ばれる報告書を2020年4月16日に公表している
日本での実現可能性
マイナンバーカードによる本人確認と電子証明書の仕組みは、エストニアのIDカードシステムと同様の機能を有しており、インターネット投票の技術的基盤として活用できる可能性が高いといえよう
段階的な導入の重要性
多くの専門家は、いきなり全面的な導入ではなく、在外選挙や地方選挙での限定的な導入から始めることの重要性を指摘しています。
デジタル社会における行政サービスの高度化が進む中、インターネット投票の導入は、投票率向上の有効な手段になり得る。投票率の向上は、より多くの国民の意思が政策決定に反映されることを意味し、それは民主主義の質的向上につながる
まとめ
インターネット投票は、民主主義の根幹である選挙制度に革新をもたらす可能性を秘めています。エストニアの成功事例は、適切な技術基盤とセキュリティ対策があれば、実用的なシステムの構築が可能であることを示しています。
しかし、セキュリティリスク、デジタルデバイド、法制度の整備など、解決すべき課題も多く存在します。日本においても、総務省を中心とした調査研究や地方自治体での先進的な取り組みが進められており、段階的な導入に向けた機運が高まっています。
特に、現在投票率の低い若年層の政治参加が促進されれば、若者世代の視点や課題がより政策に反映されやすくなり、世代間の利害を適切に調整した、より公平で持続可能な社会の実現が期待できる
今後、技術の進歩とともに、より安全で利便性の高いインターネット投票システムの実現が期待されます。民主主義の発展と有権者の利便性向上のため、継続的な議論と慎重な検討が必要でしょう。
参考情報
- 総務省:在外選挙インターネット投票システムの技術的検証及び運用等に係る調査研究事業
- エストニア政府:インターネット投票公式サイト
- 情報通信総合研究所:世界のインターネット投票に関する調査研究
- 第一生命経済研究所:投票率向上に向けたインターネット投票の導入研究
本記事は2025年9月時点の情報に基づいて作成されています。最新の動向については、各国政府や関係機関の公式発表をご確認ください。
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