ウェブトゥーンは、ソシャゲバブル、アプリ長者のような成功者を生み出すのか?
先日、知人の漫画家(原作者)すかいふぁーむ先生と、WEBトゥーン制作会社ロケットスタッフの高社長を訪ねてきました。
同社は数年前からアニメイトグループ入りしていて、通称アニメイトビルに入居していました。
お二人のMTGを横から聞いていて、何やら既視感を感じずにはいませんでした。
業界の反応が、ガラケーからスマホ時代の過渡期に似ており、ビジネスモデルがソーシャルゲーム(Free2payモデル)に似ているのです。
産業というものが新しく変化するとき、必ず出てくるプレイヤーがいます。
それは、よそもの、わかもの、ばかものです。
WEBトゥーンは、まだ黎明期ゆえに、広がりが感じず、業界内の隅っこに閉じているような気がしました。
逆にいうと、それが今チャンスなのかもしれないので、記事にしてみました。
目次
■ウェブトゥーンは制作手法もビジネスモデルもWEB時代の賜物
ウェブトゥーンとは、ざっくり言うと、韓国生まれの縦長漫画です。
既存のコミックが左から右にめくるという体験価値だったのに対して、下から上にスワイプするというのが新しい体験価値です。
表現方法は当然フルカラーで、よりリッチになりましたが、コンテンツの文字数は少なめに設定され、被写体も大きく、コミックのそれとは全くことなります。より頭を使わずさらりと読めないと離脱されるために、世界観やシナリオパターンがすでに認知されているものが好まれます。
その一方で、ソーシャルゲームのように、定期的なドーパミンを与えなくてはいけないというのもポイントです。
また、日本のコミックがまずは2話だしてその次は12話決定みたいな、ビジネスの作り方をするのに対して、
韓国のWEBトゥーンはとりあえず40話というのがデフォルトです。まるで韓国ドラマのような作り方です。
制作手法も大量生産のために、分業制がしかれ、これもまた既存のコミック作家のとは違います。
ビジネスモデルは時短アイテム課金。序章にチュートリアルのような設定があり、ソーシャルゲームのように、とりあえずガンガンページを捲らせる。とりあえずタダだからガンガン読む。そのあと、課金してまでいま全部読みたくなるという衝動に駆られるという寸法です。
ウェブトゥーンは「スナック菓子のように消費される」とすかいふぁーむ先生が言ってました。
■ウェブトゥーンの市場規模、主要プレイヤーなど
グローバルのウェブトゥーン市場は急速に成長しており、2022年の36億ドルから2030年には約566億ドルに達すると予測されています。
ビジネスモデルは、広告モデルとサブスク課金モデル(その中でポイント消費)のハイブリッドが一般的です。
日本のウェブトゥーン市場は230億円。電子コミック市場規模は約4830億円ですからまだ全体の5%程度。
それに対し韓国では、電子コミック市場の8割がウェブトゥーンだそうで、日本はまだまだ伸びしろがありますし、世界に配信していくにはウェブトゥーンの方が有利だとされています(根拠は後述します)。
なお、国内電子コミック市場はさ2027年度には市場規模が8,000億円に達するそうで、増加分の3,000億円分がウェブトゥーンなんてこともありえます。
国内の主要プラットフォームは、LINEマンガとピッコマが二台巨頭で、全体の7割を占めておりますが、年々シェアを落としており、comico、SMARTOON、R-TOON (楽天)、DADAN (グリー)などが参入しています。
■ウェブトゥーンは新たな成功者を生み出すのか?
ウェブトゥーン市場が画期的なのは、スマートフォーンアプリと同様、誰でも参加できるという点です。
出版業界のように、限られたISBNコード、版元、取次、物理的な印刷、流通、などのハードルが突破されたところにあります。
当然、制作費用(作品制作と配信用への加工)は数千万円規模でかかりますから、
ウェブトゥーンの業界でも出版社的なポジションのプレイヤーはいて、作家への印税配分は10%程度です。
ただ、制作費用を自分で持てるのならば(すべて自分で書けるならば)、
スマホアプリの黎明期に個人アプリ長者が出現したように儲けを総取りすることもできるチャンス市場です。
もちろん、落とし穴もあります。
それは、参入障壁が低いために、作品の中に埋もれるということ。広告しなくては成り上がれません。
スマホアプリ市場では、初期段階は個人アプリ開発者が食べられたのですが、大手がこぞって参入し、いまは資本力ゲームの様相です。こういった歴史を学んで、参入のやり方を考えると良いかと思います。
余談ですが、スマホアプリはアイコンが重要だというように、ウェブトゥーンも表紙で売上が見えるそうです。
また、大作ゲームからのウェブトゥーン展開も相性が良いようです。
かつて、ソーシャルゲームもIP作品が多くでましたから、そのあたりの歴史観も重要かと思われます。
■ガラケーからスマホへの過渡期の既視感
先述のように、ウェブトゥーンは日本ではまだまだ浸透していません。
読まれているものも韓国作品がほとんどで、国産作品でオリジナルヒットはありません。
大作コミックからのウェブトゥーン展開でヒットがでるかもしれませんが、まだ業界は様子見な状態です。
かつて、ガラケー時代。NTTドコモの統制経済の中で跋扈していたコンテンツプロバイダーは、スマホアプリ参入を躊躇していました。
オープン市場ですし、既存のガラケーの価値体験からのスマホ転用が想像できないからです。
既存のコミックの体験価値とウェブトゥーンのそれは全く違います。
作家側も、利用者側も懐疑的なのです。
深い表現ができないとか、売り方がわからないとか、未知数すぎるのです。
さて、スマホの話に戻りますと、結果としてガラケー特化のコンテンツプロバイダーは業をひそめ、
もともとのゲーム会社や、WEBサービス、新規事業者が彼らポケットの中から追い出しました。
ただ一社、ウェブドゥという会社は、電子コミックの取次企業として君臨しているようです。
さすがに、紙の出版社が全てオワコンになるということはないとは思いますが、
(なぜならば、作家というタレントを集め、編集者というタレントを育てる機能があるため)
未来の出版社、未来の参考書など、かつての商習慣を変えるプレイヤーは一定数現れると思われます。
■「漫画2.0」によって分業は進む。漫画大好きな素人がウェブトゥーンで儲けられる時代に。
例えば、すかいふぁーむ先生は、文章は書けるけど絵がかけない漫画家です。
既存コミックの世界でもすでに、原作と作画の分業があるわけですが、ウェブトゥーンはさらに合理的に分業が進むとされています。
今までの漫画の世界は閉じられた世界だったので、それで食べられるクリエイターも選ばれた専業者たちだけでした。
それが、分業ができ、誰でも参加できるプラットフォームになると、
専業ではないクリエイター数も増え、専業のプロも仕事の隙間に受注を増やすことができるようになります。
どんな分業かというと、まずは原作者(脚本)と作画制作チームにわかれます。
作画制作チームは、ネーム(コマ割り)、キャラデザイン、線画、色つけ、背景、仕上げ、などに分かれます。
背景に関しては、WEB時代の前では、いちいち描かなくてはならず、これもまた一苦労でした。
しかし、3D空間を先に作ることで、一瞬にして背景を起こすことができます。
キャラクターも同じく3Dにすることで、簡単にポージングができたり、エキストラも縮尺たがわず量産できます。
今までの漫画家の書生さんたちは、芸術的な職人芸でこなしていたかと思うと、頭が下がる思いです。
このようにウェブトゥーン制作現場では、比較的スキルセットの低い方も現場に参入できるわけです。
これはITエンジニアの世界も同じことが言えており、学生エンジニアも十分活躍できるように、
漫画大好きな人は誰でも、ウェブトゥーンの制作現場で活躍することができると予想されます。
■ロケットスタッフの高社長について
高さんは、韓国生まれ韓国育ち。
兵役が終わった直後に日本に渡り、IT開発会社を起業。
ガラケー時代にはソーシャルゲーム、その後は広告メディアとして漫画を配信。
そのときから出版社との関係が続き、出版社向け配信アプリなどを開発。
必然のようにウェブトゥーン事業に参入。
制作を受託したり、自社制作の作品を作りつつ、制作アセットを売り買いできるストアや、
マルチプラットフォーム対応の配信ソリューションを開発しています。
・WEBTOON制作スタジオ及び個人クリエイター向け背景などのアセットストア「プレイトゥーン」
https://playtoons.jp/store
・日本初のWebtoon専門スタジオ「Studio reBorn」
https://re-born.studio/
この秋には、ウェブトゥーン制作のスクールを展開する予定です。
■すかいふぁーむ先生について
薬学部卒、国語科教師、営業や研修講師を経ての小説家デビューという異例の経歴。
2020年8月のデビューから4年足らずで関連書籍80冊を超える多作作家。
代表作は『俺だけ不遇スキルの異世界召喚叛逆記~最弱スキル【吸収】が全てを飲み込むまで~』など。
その他、作家を取りまとめてのプロデュースや編集業務なども手広く手掛ける。
趣味の延長でペットカフェの運営も行っています。