【論文解説】小学校における知財創造教育を意識したプログラミング授業の開発
本記事は、桂本憲一(長野市立通明小学校)・村松浩幸(信州大学)が執筆し、日本産業技術教育学会誌 第67巻第2号(2025年)に掲載された論文「小学校における知財創造教育を意識したプログラミング授業の開発」の解説です。
研究の概要
本研究は、知的財産(知財)の「保護」だけでなく「創造・活用」まで学ぶ知財創造教育の考え方をプログラミング授業に組み込み、小学生の知財意識・創作意欲・プログラミングへの意欲を高める授業を開発・検証したものです。
実践は長野市の小学校4年生29名・5年生30名・6年生27名を対象に、2024年2月〜3月、総合的な学習の時間(各学年3時間)で行われました。
背景:なぜ今「知財創造教育×プログラミング」なのか
小学校プログラミング教育は2018年の学習指導要領改訂以降、急速に普及し、教科書におけるプログラミング関連の記述は2020年度用の29件から2024年度用には72件に増加しています。一方で課題も明らかになっており、端末操作の技能差・教え合いの促進・リミックス(他者作品の改造活用)による技能向上といった観点が注目されています。
従来の知財教育は著作権などの「保護・ルール」が中心でした。本研究が採用した知財創造教育は、これを超えて「創造性を育み、知財の創造→保護→活用の好循環(知的創造サイクル)を生み出す人材を育む教育」と定義されます(内閣府 知的財産戦略本部)。
授業の設計:「ミニプログラム×ライブラリ×リミックス」の仕組み
授業は以下の流れで構成されました:
- 第1時:ミニプログラムの制作とライブラリへの蓄積
各自が「旗を押すと色が変わる」「矢印を押すと下に動く」などの単機能プログラム(ミニプログラム)をScratchで制作し、クラス共有ライブラリ(Scratchのスタジオ機能)にアップロード。 - 第2時以降:リミックスによる発展的制作
他者のミニプログラムを改造(リミックス)して新たなプログラムを制作し、再びライブラリに追加。この「改造→蓄積→再改造」のサイクルを毎時間繰り返す。 - リミックスツリーの提示
授業終わりに「誰の作品が誰にリミックスされたか」を樹形図で視覚化したリミックスツリーを全体提示。知財が共有・活用される様子をリアルタイムで実感させた。
授業と並行して、国語(著作権)・道徳(情報モラル)・総合的学習の時間(肖像権・意匠権)の学習も各1時間実施し、知財の「保護」と「活用」の両面を学べるよう設計しました。
実践の様子
授業では以下のような変容が観察されました:
- 苦手な児童:得意な児童の作品をリミックスすることで創作意欲が向上し、楽しみながら多くの作品を制作するようになった。
- 4年生:休み時間にも自発的にリミックスを行う姿が見られ、作品数が大幅に増加。友達が使いそうなミニプログラムを積極的に作ろうとする児童も出現。
- 5年生:授業前は他者への公開に不快感を示していた児童が、自分のプログラムがリミックスされて役立っていることに喜びを感じ、他者のニーズを把握してプログラムを制作しようとする姿に変容。
調査結果:事前・事後の意識変化
共通7項目(4件法)の検定結果
| 質問項目 | 4年生 | 5年生 |
|---|---|---|
| Q1. 自分のプログラムを見てほしいと思う | 有意に増加 ** | 有意に増加 ** |
| Q3. 自分のプログラムを改造してほしい | 有意に増加 ** | 有意に増加 * |
| Q4. 他者のプログラムを改造するのはよい | 有意に増加 ** | 有意に増加 ** |
| Q5. 自分のアイデアがマネされるのは嫌だ(否定的意識) | 有意に減少 ** | 有意に減少 * |
| Q6. 他者のアイデアをマネするのはよくない(否定的意識) | 有意に減少 ** | 有意に減少 ** |
** p<.01 * p<.05
事後のみ:リミックスに関する評価(正確二項検定)
Q8「リミックスでプログラミングがより楽しくなった」Q9「プログラムの方法がより思い浮かんだ」Q10「作りたいものが増えた」の3項目すべてで、両学年ともに90%前後が肯定的に回答(p<.01)しました。
児童作品の分析
総作品数は4年生180点・5年生96点。リミックスの実施状況の分析では、4年生の96.7%がリミックスした経験とされた経験の両方を持っていたのに対し、5年生は51.9%と差がありました。これは5年生が休み時間にScratchを使用できなかった(実践時間の差)によるものと推測されています。
結論と今後の課題
本授業の効果として以下が確認されました:
- ✅ 他者のプログラム活用への肯定的意識の向上
- ✅ プログラミングへの楽しさ・創作意欲の向上
- ✅ アイデアの相互活用に対する否定的意識の減少
- ✅ 知財の「保護」と「活用」の両方の重要性への理解
一方で残された課題として、①ある程度のまとまった実践時間の確保が必要、②アイデア共有の良さをプログラミング以外に転移させる工夫、③知財の保護意識の直接的な測定、④ゲーム制作以外の題材への適用可能性の検討、が挙げられました。
引用・出典
桂本憲一・村松浩幸「小学校における知財創造教育を意識したプログラミング授業の開発」
日本産業技術教育学会誌 第67巻 第2号 pp.119–127(2025年6月)
DOI: https://doi.org/10.32309/jjste.67.2_119
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