全世代が医療費4割負担になったら?歳出削減効果を試算してみた
はじめに:医療費の自己負担、あなたは何割?
病院の窓口で支払う医療費は、年齢によって異なることをご存じでしょうか。現在、6歳までは2割、69歳までは3割、70歳以降は原則1〜2割の負担となっています。
では、もし「全世代が一律4割負担」になったらどうなるのでしょうか?国の医療費支出(歳出)はどれくらい削減できるのか、試算してみました。
結論から言うと、約6〜7兆円の歳出削減効果が見込まれます。
ただし、これは簡易的な試算であり、実際にはさまざまな要因が絡むため、わかりやすく解説していきます。
現在の医療費負担の仕組み
年齢別の自己負担割合
現在の日本の医療保険制度では、窓口負担は以下のように設定されています。
- 6歳まで(就学前): 2割負担
- 6〜69歳: 3割負担
- 70〜74歳: 原則2割負担(現役並み所得者は3割)
- 75歳以上: 原則1割負担(一定以上の所得者は2割、現役並み所得者は3割)
つまり、同じ1万円の医療費がかかっても、年齢によって支払う金額が異なるのです。
残りは誰が負担している?
患者が窓口で払わない分は、以下の財源で賄われています。
- 保険料(会社員や自営業者が支払う)
- 公費(税金=国と地方自治体の負担)
- 現役世代からの支援金(特に高齢者医療)
このうち、**公費負担が国や地方の「歳出」**として予算から支出されています。
国民医療費の全体像
2021年度のデータを見てみましょう。
国民医療費の総額
約45兆円
この巨額の医療費は、以下のように負担されています。
| 負担者 | 金額 | 割合 |
|---|---|---|
| 患者負担(窓口) | 約5.2兆円 | 12% |
| 保険料 | 約22兆円 | 50% |
| 公費(税金) | 約17兆円 | 38% |
公費の内訳
公費約17兆円の内訳は次のとおりです。
- 国庫負担: 約11兆円(25%)
- 地方負担: 約6兆円(13%)
つまり、国の一般会計から毎年11兆円もの予算が医療費に充てられているのです。
4割負担にした場合の試算
計算のステップ
もし全世代が一律4割負担になったらどうなるか、段階的に計算してみましょう。
ステップ1:新しい患者負担額を計算
国民医療費総額45兆円の40%が患者負担になります。
45兆円 × 40% = 18兆円
ステップ2:患者負担の増加額を計算
現在の患者負担は約5.2兆円なので、増加分は:
18兆円 - 5.2兆円 = 12.8兆円
つまり、患者の窓口負担が約13兆円増える計算になります。
ステップ3:歳出削減効果を推定
患者負担が増えた分、公費負担と保険料負担が減ることになります。
現在の財源バランス(公費38%、保険料50%)を考慮すると、13兆円の増加分のうち、約半分が公費削減につながると推定できます。
13兆円 × (公費割合 約50%) = 約6.5兆円
歳出削減効果:約6〜7兆円
以上の試算から、全世代が4割負担になれば、国と地方を合わせた公費負担(歳出)が約6〜7兆円削減されると推定されます。
この数字のインパクト
6〜7兆円という金額がどれくらい大きいか、比較してみましょう。
- 日本の防衛費(2025年度):約8兆円
- 文教及び科学振興費:約5兆円
- 公共事業費:約6兆円
つまり、国の主要政策に匹敵する規模の歳出削減効果があることになります。
実際にはこんなに単純ではない
重要な留保条件
ただし、上記の試算は非常に単純化したものです。実際には以下の要因を考慮する必要があります。
1. 高額療養費制度の存在
日本には「高額療養費制度」があり、月ごとの医療費自己負担額には上限が設定されています。
たとえば、年収約370万〜770万円の方の場合:
自己負担上限 = 80,100円 + (医療費総額 - 267,000円) × 1%
そのため、4割負担になっても、実際の負担増は上限によって抑えられるケースが多くなります。
2. 受診抑制による医療費総額の減少
窓口負担が増えると、軽症での受診を控える人が増える可能性があります。
その結果:
- 医療費総額45兆円自体が減少する
- 削減効果は試算よりも小さくなる可能性
- 一方で、重症化による医療費増加のリスクも
3. 世代間の影響の違い
現在の負担率が異なるため、4割負担による影響も世代で大きく異なります。
- 子ども(2割→4割): 2倍の負担増
- 現役世代(3割→4割): 1.3倍の負担増
- 高齢者(1〜2割→4割): 2〜4倍の負担増
特に高齢者への影響が極めて大きくなります。
4. 経済的・社会的影響
医療費負担が増えることで:
- 家計への圧迫
- 必要な医療へのアクセス低下
- 健康格差の拡大
- 消費の減少による経済への影響
これらの要因も考慮が必要です。
実際の制度変更の例
後期高齢者の2割負担導入
参考として、2022年10月に実施された実際の制度変更を見てみましょう。
- 変更内容: 一定以上の所得がある75歳以上の窓口負担を1割→2割に引き上げ
- 対象者: 約310万人
- 効果: 年間約600億円の給付費抑制
この例から、1割ポイントの引き上げで600億円程度の効果があることがわかります。全世代で大幅に引き上げれば、数兆円規模の効果が出ることは理論的に妥当と言えます。
実現可能性について
現実的には極めて困難
全世代4割負担の実現可能性は、以下の理由から極めて低いと考えられます。
- 国民の反発: 特に高齢者や子育て世帯への影響大
- 政治的なハードル: 選挙での不利は避けられない
- 憲法上の議論: 健康で文化的な最低限度の生活との関係
- 国際比較: 先進国の中でも高い自己負担率になる
他の選択肢
歳出削減を目指すなら、他の方法も検討されています。
- 薬価の見直し
- 医療機関の効率化
- 予防医療の推進
- ジェネリック医薬品の普及
- 適正な受診の促進
まとめ
試算結果
全世代が医療費4割負担になった場合、理論上は約6〜7兆円の歳出削減効果が見込まれます。
ただし注意点
- これは簡易的な試算であり、確定した数字ではありません
- 高額療養費制度や受診行動の変化など、多くの要因で実際の効果は変わります
- 社会的・経済的な影響も大きく、実現可能性は極めて低い
医療制度の課題
日本の医療費は高齢化に伴って増加し続けています。2025年度の社会保障給付費は140.7兆円に達する見込みです。
持続可能な医療制度を維持するには:
- 給付と負担のバランス
- 世代間の公平性
- 医療の質の確保
これらを総合的に考える必要があります。
この記事は試算に基づく考察です。実際の政策決定には、より詳細な分析と社会的な合意形成が必要となります。
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