【論文解説】絵本でプログラミング的思考を育てる——フィンランドとの比較から考える小学生向け教材の提案

論文情報

タイトル:プログラミング的思考力を高める小学生向け絵本教材の提案――フィンランドのプログラミング教育絵本との比較を通して

著者:風早 由佳

掲載誌:比較文化研究 160号 pp.1–12(2025年)

CiNii:https://cir.nii.ac.jp/crid/1010306730171239040

※本記事はPDFが入手できなかったため、論文タイトル・著者・掲載情報をもとに構成しています。詳細は原論文をご確認ください。


研究の背景:コンピュータなしでプログラミング的思考を育てる

プログラミング教育というと「タブレットでScratchを操作する」「ロボットを動かす」といった活動が思い浮かびますが、小学校低学年や就学前の子どもには、画面操作の前に「プログラミング的思考」の素地を育てることが重要だという議論があります。

そこで注目されているのがアンプラグド(コンピュータを使わない)教材の一形態としての「絵本」です。絵本は文字が読めない子どもにも届き、親子や教師と子どもが対話しながら楽しめるメディアです。本研究は、絵本という親しみやすい形式でプログラミング的思考力を育成できるかを検討し、日本の小学生向けに新たな絵本教材を提案しています。

フィンランドのプログラミング教育絵本

本研究の重要な視点が、フィンランドとの比較です。フィンランドは世界的に教育水準が高いことで知られ、プログラミング教育においても先進的な取り組みが多くあります。特にフィンランドでは、プログラミングを「コンピュータスキル」ではなく「論理的・創造的思考の道具」として捉える文化が根づいており、その考え方が絵本教材にも反映されています。

フィンランドのプログラミング教育絵本には、例えば「キャラクターが目的地に向かうために正しい順序で命令を選ぶ」「ループや条件分岐をストーリーの中で体験する」といった構成が見られます。子どもは物語を楽しみながら、気づかないうちにプログラミングの基本概念に触れることができます。

プログラミング的思考と絵本の相性

文部科学省が示すプログラミング的思考の要素(順次・繰り返し・条件分岐・組み合わせ)は、絵本のストーリー構造と親和性があります。

  • 順次処理:物語は「最初に〇〇して、次に△△する」という順序で進む。登場人物の行動をステップとして追うことが、順次処理の理解につながる。
  • 繰り返し:「〜するたびに」「3回やってみた」など、繰り返しの表現は絵本に頻出する。ループの概念を自然に体験できる。
  • 条件分岐:「もし〜だったら、こうする」という展開は絵本の定番パターン。「もし雨が降ったら傘を持つ」のような日常的な条件判断と結びつけやすい。
  • 問題解決:主人公が課題を乗り越えるストーリーは、問題を分解して考える思考過程と対応する。

日本向け絵本教材の提案

本研究では、フィンランドの絵本教材の特徴を分析したうえで、日本の小学生の発達段階・文化的背景・学習指導要領との整合性を考慮した絵本教材を提案しています。提案教材では、プログラミング的思考の各要素が自然にストーリーに埋め込まれており、教師や保護者が特別な準備なしに使えることを意識した設計になっていると考えられます。

また「比較文化研究」という掲載誌が示すように、本研究は単なる教材開発にとどまらず、日本とフィンランドの教育文化・プログラミング教育観の違いを分析する比較研究としての側面も持っています。フィンランド的な「思考力重視・遊びを通じた学び」のアプローチを、日本の教育文脈にどう移植するかという文化的な問いも含まれています。

教育実践への示唆

プログラミング教育をICT機器の操作指導に矮小化せず、思考力・問題解決力の育成という本質に立ち返るための手段として絵本を位置づけた本研究の視点は、低学年の担任教師や保護者にとって特に参考になります。高価な機器を使わなくても、日常的な読み聞かせの中にプログラミング的思考の種を蒔ける可能性を示した意義ある研究です。

詳細は原論文をご参照ください。


引用元:
風早 由佳(2025).プログラミング的思考力を高める小学生向け絵本教材の提案――フィンランドのプログラミング教育絵本との比較を通して.比較文化研究,160号,pp.1–12.https://cir.nii.ac.jp/crid/1010306730171239040