【論文解説】カード操作プログラミング学習のログから「想定外の学び」を発見するラーニングアナリティクス手法
論文情報
タイトル:カード操作によるプログラミング学習支援システムのラーニングアナリティクスの手法の構築:教授者が意図しない学習活動の検出支援
著者:松本 慎平、田辺 七海、神崎 悠衣
掲載誌:情報処理学会論文誌(2025年9月)
※本記事はPDFが入手できなかったため、論文タイトル・著者・掲載情報をもとに構成しています。詳細は原論文をご確認ください。
研究の背景:カード操作型プログラミング学習とログ分析の必要性
プログラミング学習の支援ツールとして、コードをテキストで入力するのではなく、カード(ブロック)を並べ替えることでプログラムを構成する「カード操作型」の学習システムが注目されています。パズル感覚でプログラムを組み立てられるため、構文エラーを気にせず論理的思考に集中でき、特にプログラミング初学者や小・中学生向けの教材として有効です。
こうしたシステムでは学習者のカード操作の一挙一動がログとして記録されますが、膨大なログデータから「何が起きているか」を教員が把握することは容易ではありません。特に課題なのが、教員が授業で意図していない学習行動——たとえば試行錯誤の繰り返し、偶然的な正解、非効率な操作パターンなど——の検出です。こうした「想定外の学び」を見逃すと、授業改善の機会を失ってしまいます。
本研究は、カード操作プログラミング学習システムのログデータに対してラーニングアナリティクス(Learning Analytics)の手法を適用し、教員が気づきにくい学習活動を自動的に検出・可視化する手法の構築を目的としています。
ラーニングアナリティクスとは
ラーニングアナリティクス(LA)とは、学習者が残すデジタルデータ(操作ログ・回答履歴・時間情報など)を分析し、学習プロセスの理解や教育改善に役立てる研究分野です。オンライン学習プラットフォームの普及により大量の学習ログが蓄積されるようになったことで急速に発展しています。
従来のLAは主に「何点取ったか」「何回提出したか」といった結果指標に注目しがちでしたが、近年は学習のプロセス——どのような順序で操作したか、どこでつまずいたか、どんな試行錯誤をしたか——に着目する手法が注目されています。カード操作型システムはその操作ログが豊富に得られるため、プロセス分析に特に適しています。
「教授者が意図しない学習活動」とは何か
本研究のキーワードである「教授者が意図しない学習活動」とは、教員が授業設計時に想定していなかった学習者の行動パターンのことです。具体的には以下のようなケースが考えられます。
- 総当たり的な解法:カードを論理的に考えず、手当たり次第に並べ替えて正解にたどり着く。
- 極端な試行回数の偏り:ほとんどの学生が2〜3回の試行で解く問題を、特定の学生が30回以上試みている。
- 意図しない学習経路:問題を飛ばして後の問題から解き始めるなど、想定した順序と異なる学習経路をたどる。
- 不自然に速い解答:十分に考えた形跡なく瞬時に正解している(カンニングや偶然の一致の可能性)。
- 反復による定着:一度正解した後も繰り返し同じ問題に取り組む自発的な復習行動。
こうした行動の一部は問題行動(手抜き・不正)を示す可能性がありますが、一方で予想外に深い理解や自発的な学習意欲を示すこともあります。どちらにせよ、教員が把握して適切に対応することが教育の質向上につながります。
提案手法の概要(推定)
本研究では、カード操作ログから「意図しない学習活動」を検出するための分析手法を構築したものと考えられます。具体的には以下のようなアプローチが想定されます。
操作ログの特徴量抽出
カードの移動回数・正解までの試行回数・操作間の時間間隔・カードの並べ替えパターンなど、ログから多様な特徴量を抽出します。これらの数値を組み合わせることで、各学生の学習行動を定量的に表現します。
典型パターンからの逸脱検出
クラス全体の典型的な操作パターンを基準として、そこから大きく逸脱している学習者や問題を自動的に検出します。統計的な外れ値検出や機械学習によるクラスタリングが活用される可能性があります。
教員向けダッシュボードの提供
検出された「想定外の学習活動」を教員が直感的に把握できるよう、可視化ダッシュボードとして提示します。どの学生が・どの問題で・どのような異常な行動をとったかを一覧できることで、教員の授業改善や個別指導に役立てます。
カード操作型学習システムの特徴とログ分析の優位性
テキスト入力型のプログラミング環境と比べて、カード操作型システムは以下の点でログ分析に優れています。
- 操作の粒度が細かい:「このカードをここに置いた」という一手一手が記録されるため、思考プロセスを詳細に追跡できる。
- 試行錯誤の記録:テキスト入力では保存しないと消えてしまう中間状態も、カード操作では操作履歴として自動的に残る。
- 構文エラーがない:カードを使うため文法的に無効な状態が生まれにくく、ログのノイズが少ない。
教育現場への示唆
本研究の成果は、プログラミング教育のデータ活用という観点で重要な示唆を与えます。学習システムの導入に際して「ログを記録する」ことはできても、「ログから何かを発見する」ためには分析手法の設計が必要です。本研究のように「教員が意図しない行動の検出」という明確な目標を持ってLA手法を設計することで、単なるデータ収集にとどまらない実践的な教育改善が可能になります。
特にプログラミング教育では、「正解したかどうか」だけでなく「どのようなプロセスで正解したか」を把握することが、学習者の真の理解度を測るうえで不可欠です。カード操作型システムのログ分析はそのための有力な手段であり、今後のプログラミング教育の質向上に貢献する研究といえます。
まとめ
本研究は、カード操作型プログラミング学習システムの豊富な操作ログを活用し、教員が授業設計時に想定していなかった学習行動を自動検出するラーニングアナリティクス手法を構築したものです。学習のプロセスデータを活かして「隠れた学び」や「問題のある学習パターン」を可視化するこのアプローチは、データ駆動型の教育改善を推進するうえで重要な一歩です。
詳細は原論文をご参照ください。
引用元:
松本 慎平、田辺 七海、神崎 悠衣(2025).カード操作によるプログラミング学習支援システムのラーニングアナリティクスの手法の構築:教授者が意図しない学習活動の検出支援.情報処理学会論文誌.
